世界中の医療企業、政府機関が参画するPharmaLedger Association(PLA)。医療データ領域の変革

★3点要約★
1) PLAは医療業界の変革を目指すスイスの非営利団体
2) デジタルIDを前提とした分散型臨床試験、開発から経過観察までのサプライチェーン証跡
3) 医療業界におけるトークン化経済

★ひと言★
モビリティ業界の「MOBI」、医療業界の「PharmaLedger」といったところか
世界のデジタル投資 2024.01.13
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 読者のみなさま、いつもニュースレターをお読み頂きありがとうございます。このニュースレターは1月の第2報となります。

 前回は「ヘルスケア4.0」「パーソナルヘルスレコード(PHR)」といった現在医療界で進められている取組みについて触れました。

 そして今回は、世界中の医療企業、政府機関が参画するPharmaLedger Associationについて調べた内容を整理しました。

 健康状態、DNA情報といったデータを提供したり、臨床試験・治験に参加してその見返りを得るということがこれからのデジタル化社会でどのように描かれているのか垣間見ることができます。

 今回のPharmaLedger Associationについても調べていくと、医療業界がどのような方向に動いているのかイメージがつかめると思います。

 ちなみに別の業界、モビリティ業界については「MOBI」という業界団体がWeb3.0を進めていっており、そこには世界中のモビリティ企業が参画し、業界が動いていることを以前紹介しました。「業界動向」という観点で気になる方は過去記事も参照ください。

***

1. PharmaLedger Association(PLA)とは

 PharmaLedger Association(略PLA)は、世界の医療における安全かつ信頼性の高いデジタルトラストエコシステムの構築に取り組んでいるスイスの非営利団体である。

・革新、協業、業界標準の適用を主眼とすることで、「デジタル信頼性」の実現に向けた新たな相互接続エコシステムモデルを確立します。

・当協会(PLA)は共創環境において最先端技術を推進することにより、デジタル時代のオープンソース共有インフラという公益のために医療業界が団結する一助となる、前競争的・非営利の包括的組織として運営されています。

PLAは大別すると以下3つにイノベーションに取組んでいる。

  •  サプライチェーン

  • 臨床試験

  • ヘルスケアデータ

 医療・医薬品の物流から、医薬品の研究開発、そして日々生成される膨大なヘルスデータ記録・活用にまで、分散型台帳技術を活用したイノベーションに取組んでいる。

PLAのビジョンは以下の通り。

PLA は、ヘルスケアにおけるデジタル トラスト エコシステム (DTE-H) を有効にして、単一の組織では解決できない問題を解決することで、ヘルスケア 4.0 を接続、保護、強化、構築、維持するために存在します。
PLA

PLAの成り立ちを追うには、まず「IMI」について知る必要がある。

IMIとは

 IMIはInnovative Medicines Initiativeの略で、「革新的医薬品イニシアティブ」のこと。患者のためのより良い、より安全な医薬品の開発のスピードアップを目的とした、EU と欧州製薬団体連合会(European Federation of Pharmaceutical Industries and Associations: EFPIA)による欧州最大の官民共同イニシアティブである。

 IMIは下図のような構成で運営されている。
図中左下のEFPIAとは、欧州製薬団体連合会のことで、ベルギーの首都ブリュッセルに本部を置く、欧州でビジネスを展開する製薬産業を代表する団体である。欧州各国の33の製薬業界団体や欧州で展開する40の大手製薬企業が会員となっている。

 図中左サイドのように、IMIには「公共のEUから10億ユーロ相当」、「民間のEFPIA加盟会社から10億ユーロ相当」もの資金提供がされ運営されている。

 IMIでは、これまでに7000以上のプロジェクトが結果を出し、現在は182のプロジェクトが進行中となっている。(下図参照)

 PharmaLedgerは、このIMIのプロジェクトのひとつとして、2020年1月から2022年12月まで稼働していた。

 IMIのwebサイト上では、「PharmaLedger」プロジェクトにおいて、IMI内の資金がどのように利用されたかも閲覧することができる。

<a href="https://www.imi.europa.eu/projects-results/project-factsheets/pharmaledger">IMI</a>

IMI

PharmaLedgerプロジェクトにかけられた予算は総計 8,290,694ユーロ、日本円で約13億円相当がかけれていた。内訳としては、ソフトウェア企業や大学への研究発注に使われていた模様。

 この中で一番資金が使用されたのが「Romsoft」という会社である。Romsoft社webサイトにもPharmaLedger関与の情報が掲載されている。

PharmaLedgerではQuorumを使用し、開発環境ではAWSを利用とのこと。

 Romsoft社はPharmaLedger以外にも、IMIの他プロジェクトに関与しており、例えばEMIMという、患者が自信の医療データを自己管理するプロジェクトにも関与している。

PharmaLedgerプロジェクトにおいては、Romsoft社は製薬大手Novartis と並んで PharmaLedger ブロックチェーンのテクニカル コーディネーターを務めていた。下図のサイトではブロックチェーンの利用ランキングが掲載されているが、製薬大手Novartisは手広く開発に利用していることがわかる。

https://www.cbinsights.com/research/state-of-enterprise-blockchain-2022/

https://www.cbinsights.com/research/state-of-enterprise-blockchain-2022/

 以上のように、IMI内での期間限定プロジェクトとして終わるだけでなく、その後のPharmaLedgerの規模拡大のために設立されたのが、PharmaLedger Association (PLA)という非営利団体である。

***

2. PharmaLedger Association(PLA)のメンバ

 PLAのメンバには医療業界のグローバル大企業、政府機関が多く加入している。2023年7月には、日本の武田薬品など複数の組織も追加加盟し、30を超える組織が加入している。下図はその一部である。

***

3. PharmaLedger Associationが取組むプロダクト3種

 PLAのwebサイトには以下3つのプロダクトラインがある。

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