「証券か、商品か」SECとCFTCが協力しあう「プロジェクト・クリプト」が変える米国規制の未来
読者の皆さま、こんにちは。
今回は米国金融規制における最大の懸念事項であった、SEC(証券取引委員会)とCFTC(商品先物取引委員会)による管轄権の対立が、ついに解消へ向かっていることについて紹介します。
2026年に入り、両当局は「プロジェクト・クリプト」という共通の旗印の下で、デジタル資産市場を一つに統合する歴史的な一歩を踏み出しました。
はじめに、SECとCFTCの役割とは?
SEC(証券取引委員会)

wikipedia
SEC(米国証券取引委員会)は、米国の金融市場を監督する独立行政機関で、1934年に設立されました。
主な役割は投資家保護、公正で透明な市場の維持、企業の適切な情報開示の確保を促進することです。上場企業には財務状況やリスクの開示を義務づけ、IPOや証券取引、ブローカー、取引所を監督しています。近年は暗号資産やトークン化証券についても「証券に該当するか」を巡り、強い影響力を持っています。
CFTC(商品先物取引委員会)

wikipedia
CFTC(米商品先物取引委員会)は、米国の先物・デリバティブ市場を監督する独立行政機関で、1974年に設立されました。
商品先物、オプション、スワップ取引などを管轄し、市場の公正性と安定性を確保する役割を担っています。ビットコインなど一部の暗号資産を「コモディティ」と位置づけている点が特徴で、SECと暗号資産の管轄を巡って対立・競合する場面も多いです。
これまでの米国金融規制における最大の懸念事項とは何か
デジタル資産を取り巻く最大の懸念事項として「規制の不確実性(不透明さ)」がありました。これまで、多くの投資家や事業者が抱えていた具体的な不安として以下の3つがあります。
1. 「証券か、商品か」という二重基準
SEC(証券取引委員会):
投資契約、つまり「証券」として厳格に規制しようとします。CFTC(商品先物取引委員会):
金や石油と同じ「コモディティ(商品)」として、より柔軟に監督しようとします。
同じ一つの暗号資産に対して、SECが「それは証券だ」と言い、CFTCが「いや、商品だ」と主張する、いわば「監督官庁の奪い合い」が起きていました。
事業者はどちらのルールに従えばよいか分からず、後から「実は違反だった」と訴えられるリスク(法執行による規制)を常に抱えていました。
2. 既存の古い法律を無理に当てはめること
米国では、1930年代から40年代に作られた古い法律(ハウィー・テストなど)を使って、現代のブロックチェーン技術を判断しようとしてきました。
スマートコントラクトや分散型ネットワークといった、「中央管理者がいない技術」に対して、無理やり古い法律を当てはめるため、技術の特性が無視されたり、米国内での開発が事実上不可能になったりする懸念がありました。
3. イノベーションの国外流出(キャピタル・フライト)
規制が厳しすぎたり不透明だったりすると、企業は法的リスクを避けるために、ドバイや欧州、シンガポールなどの「ルールが明確な国」へ拠点を移してしまいます。
これにより、「米国の技術的な主権が失われること」や、将来的な経済成長の機会を逃してしまうことが、政治レベルでも大きな懸念となっていました。
以上のような懸念事項に対して、SECとCFTCが協力しあい、これまでの「混沌とした争い」を終わらせ、「予測可能なビジネス環境」を作ることが、現在の米国規制当局の最優先課題となっていました。
2026年の歴史的転換点:SECとCFTCによる「プロジェクト・クリプト」共同運営の始動

2026.01.29、SECとCFTCの両長官は、デジタル資産に対する包括的な規制フレームワークを構築するための共同イニシアチブ「プロジェクト・クリプト」を正式に発足させました。
この取り組みは、長年続いてきた「証券か商品か」という管轄権を巡る対立を終わらせ、事業者が直面していた二重規制の解消を目指すものです。
両当局は、共通の資産分類を策定し、市場監視データの共有、さらには重複する登録・報告プロセスを一本化する「代位コンプライアンス」(Substituted Compliance)の導入を検討しています。
これにより、これまで米国外に流出していたデジタル資産ビジネスを国内に呼び戻し、米国を世界のデジタル金融のハブとして再定義するとしています。
SECのポール・アトキンズ委員長とCFTCのマイケル・セリグ委員長は共同会見において、伝統的な金融の信頼性とデジタル資産の革新性を両立させるための「共通のルールブック」の必要性を強調しました。
・SECとCFTCが従来の対立を解消し、共通の資産分類と監視体制を構築することは、市場参加者にとっての予見可能性を劇的に高め、コンプライアンスコストの削減に直結します。
・「代位コンプライアンス」(Substituted Compliance)の導入検討は、二つの規制当局への登録を強いられていたプラットフォームにとって、ビジネスのスピードを加速させる画期的な規制緩和と言えます。
「プロジェクト・クリプト」の構造
「プロジェクト・クリプト」は、単なる協力体制の名称ではなく、米国の金融規制を根本からアップデートするために設計された、以下の3つの論理的な柱から成る構造を持っています。
1. 統一的な資産分類の策定
構造の土台となるのが、デジタル資産をその「機能」に基づいて明確に分類する仕組みです。これまでは「証券か商品か」が曖昧でしたが、以下の4カテゴリーに再定義することで、どちらの当局が管轄するかを事前に確定させます。
ネットワークトークン: ネットワークの利用や運営に用いられるもの。
デジタル・ツール: メンバーシップや資格、チケットとして機能するもの。
デジタル・コレクティブル: アートや文化的な価値を持つNFTなど。
トークン化された証券: 従来の株式や債券をブロックチェーン上に記録したもの。
2. 「代位コンプライアンス」(Substituted Compliance)による重複の排除
従来の体制では、一つのプラットフォームがSECとCFTCの両方に登録し、それぞれに異なる形式で報告を行う必要がありました。
プロジェクト・クリプトでは、一方の当局への報告やコンプライアンス体制が、もう一方の当局の基準も満たしていると見なす「代位コンプライアンス(Substituted Compliance)」の導入を進めています。これにより、事業者の事務負担を一本化し、法的な「二重苦」を解消する構造となっています。
3. イノベーション免除とセーフハーバーの提供
新技術を開発する事業者が、法執行を恐れずに実験を行える「規制のサンドボックス」的な枠組みです。
ソフトウェア開発者への免責: コードを公開・維持するだけの開発者が、規制対象の仲介業者と見なされないよう明確なセーフハーバーを設けます。
期間を限定した免除規定: 特定の条件下で、既存の厳格な証券規制の適用を一時的に緩和し、製品が市場に適合するかを検証する機会を与えます。
これらの構造により、
SEC(主に投資家保護と情報の透明性)とCFTC(主に市場の健全性と不正防止)が、一つのデジタル資産市場を「共通のルールブック」で監視できる環境を構築しています。
これらの動きをどう読むか
今回の「プロジェクト・クリプト」共同始動は、米国のデジタル資産規制が「分断」から「統合」へと進化したことを意味します。
これまで市場参加者は、